『 夏休みに ― (2) ― 』
「 あら。 この梯子、 なあに。 」
屋根裏部屋の奥にさらに上へと伸びる梯子段があるのを見つけたのは 春の大掃除の後だった。
冬モノの重いカーテンやら嵩張る羽根布団を ジョーと一緒に仕舞いこみ ざっと整頓した。
「 ・・・ う〜〜ん ・・・ こんなトコかな? あとは何がある、フラン? 」
さすがのジョーも やれやれ・・・といった風情で額をぬぐっている。
「 ご苦労様 ジョー。 え〜と・・・ 後は ・・・・?
皆の冬のコート類は玄関のクローゼットに纏めてかけるし コタツは奥に入れたわ。
そうね ここに仕舞うのはもうこれで終わりかしら。
あ あと ・・・ あの子達のベビーダンスをもうこっちに置いてもいいかも・・・ 」
「 ベビーダンス? ・・・ ああ! アイツらが生まれた時に皆が贈ってくれたのだね? 」
「 ええ。 赤ちゃん用品が入っているから もう必要ないでしょ?
今は ジェロニモ Gr. が作ってくれた大きなのがあるし。 」
「 そうだね。 じゃ ・・・ この際、不用な家具類は ここに仕舞おうか。
これからどんどんチビ達のものが増えるからね。 」
「 そうね。 じゃあまず手始めにあのタンスを 」
「 ああ。 ぼくが持ってくるから。 きみはスペースを決めておいてくれ。 」
「 了解。 ・・・ 大丈夫? 」
「 あ〜〜 失礼な。 あれっくらい片手で持てる よ! 」
ジョーは ふん! 息巻いて屋根裏から出ていった。
「 ふふふ ・・・わかってるわよ、009? ちょっと言ってみたかったの。
え〜と ・・・? どこに置こうかしら。 もっと奥でもいいわねえ・・・ 」
かなり広い屋根裏部屋のガラクタ類を避けて進むと ― その梯子段があった。
「 ・・・ へえ? これ・・・屋根に出るためのものかしら。 」
彼女はずっと上まで見上げたけれど、それは梁まで伸びているだけだった。
「 ふうん? この上にもなにか ・・・ スペースがあるのかしら ね?
なんにも聞いてないけど ・・・ ふふふ ちょっと登ってみよ♪ 」
梯子段は 木製だったけれどしっかりしていて壊れる心配はなさそうだ。
「 よ〜し ・・・ よ・・・っと・・・! 」
島村氏の夫人にして双子の母 は えいや!っと垂直に伸びる梯子を登りはじめた。
「 ・・・ ふ〜〜 ここ が終点 ・・・ みたい ね。
あら ・・・ なにもない ・・・ ここ、 踏んでも大丈夫・・・よねえ? 」
梯子は太い梁のところで終っていて、そこには狭い空間があった。
梁と梁の間に板が渡してあり 三畳くらいのスペースが出来ていたのだ。
「 ・・・ ふ〜ん ・・・ あ ここ ・・・ 工事の時のスペースだったのかも ・・・ 」
ぽっかり空いた場所に フランソワーズはぺたん、と座ってみた。
「 あら・・・ いいカンジ。 この板、結構頑丈そうよね? それじゃ・・・ 」
ちょっとストレッチでも・・・ と 彼女は脚をう・・・・ん! と伸ばし始めた。
― ドンドン ドン ・・・!
お〜い ・・・ 開けてくれ〜〜 ドアの外でジョーが喚いている。
腕にベビーダンスを抱えているらしく やはり嵩張ってかなり苦戦していた。
お〜い フラン〜〜 ダン ダン ドン ! ノックじゃなくて蹴飛ばしているらしい。
「 ! あ ジョー ・・・! はあ〜い ちょっと待ってね〜〜 」
ドアが蹴破られる前に! と フランソワーズは慌てて梯子を降り始めた。
結局その日は屋根裏部屋の整頓であれこれ時間を取ってしまい、夫婦でヘトヘトになった。
「 ・・・ ふは〜〜 ・・・ これで なんとか・・・ 」
「 そう ね ・・・ 冬物も仕舞えたし。 ここも一応みられるようになったし ね。 」
「 はあ〜〜・・・ やれやれ・・・ あああ 腹減ったぁ〜 」
「 ふふふ・・・ 腹ペコさん? 今晩はねえ、塩糀に漬けておいたブタ肉とたっぷり野菜炒めよ? 」
「 うわっほ〜〜い♪ アレ、ウマイよ〜ほんと! 」
「 皆大好きですもの。 すばるに野菜を切ってもらうわ。 」
「 お〜 アイツ、 なかなかウマイよなあ? シェフにでもなるかな? 」
「 さあねえ? そうだわ、すぴかにお使い、頼まなくちゃ! 明日の朝の牛乳がもうないの。 」
「 ああ じゃあ ぼくがすぴかと行ってくるよ。 自転車でひとっとび さ。 」
「 あら お願いできる? じゃ ・・・ ついでにオリーブオイルとお醤油と え〜と ・・・
あ そうそう料理用のワインでしょ、小麦粉も買っておかなくちゃ〜 」
「 おいおい ・・・ 牛乳 じゃないのか、買い物は〜〜 」
「 あら だって。 すぴかと一緒に自転車で、 なんでしょ? だからついでにお願い〜〜 」
「 ・・・ わか〜ったよ そんじゃ飛び切り美味い晩飯をたのむ。 」
「 ラジャ♪ す〜ぴかさ〜ん ! お使い お願い〜〜〜 」
フランソワーズはにこにこ・・・ 娘を呼びつつ屋根裏部屋を出た。
「 ・・・ やれやれ・・・ ま いっか。 久し振りにすぴかと自転車デートだ♪ 」
ジョーもに〜んまり ・・・ 疲れた〜なんてセリフはすっかり忘れてしまったらしい。
― カチャリ ・・・。 屋根裏部屋はしずかな埃っぽい空間に 還った。
結局フランソワーズは なんとなく <屋根裏の上> の存在をジョーには話しそびれた。
別に故意に、ではなく 気がつけば話していなかった、という程度のことだ。
以来 その埃っぽい空間は フランソワーズの < ひみつきち > になった。
コズミ博士から譲られた古いフランス語のペーパーバック (なんと! 推理小説が主だった)
を読みふけったり、これもコズミ博士から頂いた古きよき時代の万年筆で書き物をしたり ・・・
一人だけの時間と空間 を楽しんでいた。
< お母さんの夏休 > 宣言をし、 さ〜て・・・どうしようかな・・・と思い。
フランソワーズはとりあえず読みかけの本を取りに寝室に向かった。
「 ふんふんふ〜ん・・・・♪ どうしようかな〜〜 ちょっとお昼寝?
ううん せっかくの夏休みがもったいないわ。
本も読んじゃいたいし・・・あ。 ポアントのリボンも縫い付けたいし。 」
結局 今日のところは読書タイム に決めた。
「 ・・・ あ。 あそこ、行こう。 だ〜れにも、ジョーにも教えてない <ひみつきち>。
あそこで < 夏休み > の最初を楽しむわ♪ 」
数冊の文庫本を選ぶと、彼女は屋根裏部屋へと急ぎ あの梯子段の上 へと隠れた。
― そして階下では。 父とムスコの <闘い> が繰り広げられていた ・・・
「 お父さん ちがう。 <いちょうぎり> にして。 」
「 お父さんってば ・・・ それじゃゆですぎ・・・ まあ いいけど。 」
「 ・・・ お父さん! 小口切りだけど もっとうすく! ぽてと・さらだ だよ? 」
「 ― おとうさん ・・・ ! 」
日頃はにこにこ〜〜大人しく、ジョーの後をくっついて歩くのが大好き♪ なムスコは。
キッチンでは 鬼の <げんばかんとく> に変身した。
「 え! あ そ そうか ・・・・ スマン ・・・ いちょうぎり かあ・・・ 」
「 うわ〜〜〜 じゃ 水、水に入れれば・・・ あちちち・・・・! 」
「 う? うすく?? こ これ以上はちょっと・・・ むりかも・・・ 」
「 あっ しょ 醤油が〜〜 あああ こぼれちゃった・・・ 」
「 ― す すいません〜〜〜 」
「 ただいまっ!! すばる〜〜 ほら。 ぷちとまと と ご〜や〜。
あとね〜 サラダ菜はさあ ずいぶん穴ぽこだらけなんだけど ・・・ いい? 」
すぴかがひょっこり勝手口から入ってきた。
庭の温室に サラダの材料を調達しに行っていたのだ。
「 お〜 さんきゅ〜 ははは 穴ポコサラダ菜 だねえ〜 ま いっか。 」
「 でしょ? あ お父さん〜〜 ポテト・サラダ、 できた? 」
「 ・・・ い いま 作っています ・・・ 」
「 ふうん・・・ がんばってね? あ ね〜え お父さん?
デザートにさあ〜 アイスとか・・・ 食べたくない? 」
「 たべたい! 僕。 」
「 アタシも食べたいな〜 きっとお母さんも食べたいな〜って思ってるよ?
お父さんは? 」
「 え? アイス? う〜ん そうだねえ〜 食べたい かも ・・・ 」
「 でしょ!? じゃ アタシ、大急ぎで買ってくるから! お金 ちょうだい? 」
「 わお〜〜 すぴか、行ってくる? 」
「 ウン! 自転車で イッキ 〜〜〜♪ ね だから お父さん〜〜 お金〜〜 」
「 そ そうかい? じゃ ・・・ これ。 あ 自転車、気をつけろよ?
坂の下で一時停止! イッキに突っ切るのはナシだぞ。 」
「 りょうかい〜〜♪ じゃね〜〜 イッテキマス♪ 」
すぴかはジョーからもらったお札を ジーンズのポケットにねじ込むとまたまた勝手口から
駆け出していった。
「 ふう・・・元気だなあ・・・ 」
「 お父さん? まだ全部切ってないよ? ごーやー も! 」
つんつん ・・・ すばるがジョーのシャツを引っ張った。
「 お・・・ すまん すまん ・・・ え〜と ・・・ あ!ぷちとまとは ・・・ 」
「 ぷちとまと はポテト・サラダには入れません。
あとは卵とハムなんだ。 ほらほら お父さん、手が止まってるよ? 」
「 あ ・・・ すまん ・・・ 」
な なんか〜〜 立場逆転 なんですけど・・・
しっかり コイツ なんだってこんなに偉そうなんだ?
ジョーはムスコの前でおたおたしっぱなしで ― なんとかお昼御飯の用意を終えた。
「 すばる・・・? あの ・・・ 一応全部切ったけど・・・? 」
「 う〜ん、 ま だいたいこれでいいかな〜 あとはミルク・ティの用意だよ、お父さん! 」
「 ・・・ あの ・・・? すばる・・・ 」
「 なに お父さん。 」
「 あの・・・ お父さん さ ・・・ お母さんに 御飯できました って呼びに行きたいんだけど・・・」
「 あ〜 ・・・ うん いいよ、いってきて。 でもすぐ!だよ〜
あと 僕が ぽてとさらだ をまぜて〜 きれいにもりつけしたら 御飯!だからね。 」
「 ・・・ ハイ。 」
「 すぐによんできてね。 すぐにきてね。 す・ぐ だよ!
のろのろしていたら おいしいごはんがまずくなっちゃいますからね。 」
「 ・・・ わかりました。 」
のんびり屋の息子は いっつも母にがんがん言われているセリフをそのまま父返した。
くくく ・・・ ちょっと可笑しかったけれど、ジョーは一生懸命笑いと堪え、キッチンを出た。
「 さ〜あて・・・と。 <夏休み中> な ヒトをつれてこなくちゃ 」
ジョーはまず 寝室をのぞいた。 ちょっとだけドアを開け、耳を寄せた。
く〜く〜 ・・ 可愛い寝息は きこえてこない。
「 う〜ん?? ここに居ないとすると・・・ あ! < ひみつきち > だな。
うんうん ・・・ あそこは彼女のお気に入りだもんなあ。 」
ムスコの <げんばかんとく>ぶり を妻に話してやろうと ジョーはハナウタ交じりに
階段を登り例のドアをノックして。
― 小さな女の子に出会った。
「 ・・・ あ ・・・ ここ ・・・ ? 」
現実なのか それとも夢をみているのか ・・・ フランソワーズにはよくわからなかった。
はっきり確かめなくては、 と思いつつ瞼は異様に重く目が開かない。
といっても拘束されているとか脱出不可能な場所に挟まっている、などという不快感はない。
ただ まった〜〜り・・・と身体全体が気だるく重く 頭もぼんやりしている・・・宙に漂っている・・・
要するに 寝ぼけ状態 というヤツらしい。
「 ・・ え ・・・ ここ どこ ・・・? 」
すこうし働き始めた頭脳で 彼女はそれでもまだぼや〜・・・っと考え始めた。
・・・ 下から人声が聞こえてくる。 ぼそぼそ・・・小さな声だけど 一人じゃない。
ふた色の声がきこえる。 おしゃべり、しているらしい。
うん ・・・? 誰 ・・・ ああ ジョーと ・・・?
子供の声? 高い声ね ・・・ ああ すぴか と一緒なの ね ・・・
フランソワーズはぼんやり屋根の梁を眺めつつ思った。
耳に入る声は なにを言っているのかよく聞き取れなかったけれど とても心地良い。
身体も頭も重く ・・・ 指一本動かす気分にもなれなくて。
その空間に ぼんやりと漂っている。 でも気分は悪くないのだ。
ああ ・・・ わたし、夢を見ているんだわ ・・・
< とくべつ・ひみつきち > で転寝して ・・・ そのままなのよ ね
・・・ ジョーとすぴか ・・・ 楽しそう ・・・
下からの人声は いつの間にか止んでいた。
ジョーとすぴかは部屋から出ていったらしく 屋根裏部屋はまた静かな埃っぽい空間に戻った。
・・・ まだ もうちょっと寝ていても いいみたい ね?
いい気持ち ・・・ こんなにゆったりした気分 ・・・ 初めてかも・・・
すう ・・・ っと睡魔に引きこまれ 瞼もまたゆっくりと落ちてきた。
ドンドンドン ・・・! ドン ・・・!
「 あの ・・・ 入ってもいいかな? し シマムラジョー ですけど? 」
ドンドン ・・・! ドン!
いきなり騒がし音が響いてきた。
「 !?!? え ?? な なに・・・? ジョー?? 」
今度は ぱっと目が開き フランソワーズは慌てて飛び起きた。
「 ? やだ・・・ なに? ふざけているのかしら・・・ シマムラジョーです ってなに?? 」
下を覗いてみたが 誰もいない。 ドアには鍵はないので簡単に開くはずなのだが・・・
「 ジョー!? 開いてるのよ、入ってきて! 」
ドアの外の夫に大きな声で呼びかけると、彼女は慎重な足取りで梯子段を下りた。
― ガチャ。
「 ジョー? なあに、どうしたのよ? 」
駆け寄って開けたドアの向こうには見慣れたはずの彼が なぜか目をまん丸にして立っていた。
「 ・・・ふ フラン??? 」
「 はい? 」
「 え??? なに? 息 切れてるよ? 」
「 え? そんなこと ないわ。 ああ 欠伸したからかしら ふぁ〜〜 」
「 ・・・ そう? 」
「 そうよ。 」
「 あ! そうそう 御飯です。 」
「 はいはい、ありがとう。 ふふふ・・・ あのコ達、 ちゃんとお手伝い した? 」
「 ! お手伝いもなにも・・・! あ。 あの ・・・さあ? 」
「 はい? 」
「 あの ・・・ きみ、ずっとここに居た よねえ? 」
「 ええ 居たわよ。 ふふふ ・・・ 読書しようと思ってたけど・・・お昼寝しちゃった♪ 」
「 あの ・・・ どこで? 」
「 え? ここ で。 」
「 ・・・ そうだよ ねえ。 あの ・・・ 誰か来た? 」
「 いいえ? あ ジョーが来ただけよ。 」
「 ・・・ そっか ・・・ そうだよ ねえ ・・・ うん ・・・ 」
「 さあ ゴハンなんでしょ? ・・・ あ〜〜 下ですばるが怒鳴ってるわよ? 」
「 え? あ しまった!
< のろのろしていたらおいしいごはんがまずくなっちゃいますからね。> って言われてた・・ 」
「 ぷ・・・ なあに それ。 すばるが言ったの? 」
「 ああ。 もうすげ〜〜上から目線〜〜 」
「 ふふふふ ・・・ あ ますます怒鳴ってますね、急ぎましょ。 」
「 了解〜〜 」
夫婦はクスクス・・・笑って階下へと急いだ。
「 おっそ〜〜〜い!!! おとうさんったら! 」
キッチンに戻ると案の定 すばるがぷんすか怒っていた。
「 ごめん ごめん〜〜 お母さんとちょっと話、してて さ。 」
「 ふうん? お話ぃ?? ・・・ そぉお? 」
すばるはものすご〜〜〜く疑わしそう〜〜な目で父と母をみている。
「 そ そうだよ。 えっと〜〜 ごはん出来たのかな? あ お茶を淹れるんだっけね・・・ 」
「 みるく・ティ と カフェ・オ・レ。 でも まだ。 すぴかを待ってなくちゃ。 」
「 え? すぴか ・・・ まだ遊びに行ったままなのかい? 」
「 お父さん!? すぴかはね〜〜〜 アイス、買いに行ったんだよ??
さっき お父さんからお金、 もらっていったじゃん? 」
「 あ! ああ そうだったっけ。 ごめん ごめん〜〜
それじゃ ・・・っと。 すばるの力作を運ぼうか。 」
「 えっへっへ〜〜 見て見て〜 じゃ〜〜〜ん♪ 」
すばるは大にこにこで 調理台の上を指した。
そこには ― 大皿にぽてと・さらだ がきれいにもりつけてあり
小皿にはぷち・とまと と ご〜や〜、 そしてハムとゆでたまごすぷれっど が盛ってあった。
「 うわ〜〜〜 すご・・・・ すばる、すごいねえ〜〜 こりゃ美味しそうだなあ〜 」
どれ 一口 ・・・とジョーがポテト・サラダに手をだすと ― ぺち。 小さな手に叩かれた。
「 いけません、お行儀のわるい。 皆で一緒に食べる方がずっと美味しいんだよ。 」
ぷぷぷ ・・・ いっつも言われている小言 まんま だよねえ
なんだ、ちゃんとわかっているんじゃないか〜
うん、 いつもは甘ったれているだけなんだな きっと・・・
ジョーはちゃんと、息子の様子を観察している。
「 ・・・ はいはい 申し訳ありません。 じゃ 食卓に運ぶかい? 」
「 うん! あ お母さんは? 」
「 手、洗ってる。 お〜っと・・・すばる、ドア、あけてくれ。 」
「 らじゃ! 」
「 へえ〜〜 上手いもんだなあ・・・ 今日は豪華ランチだな。 」
「 えっへっへ・・・ 味もさ〜〜 期待してて? マヨネーズにね、ちょびっとおしょうゆ、たらすの。
えっと・・・あとはぁ〜〜 これ! 」
― どん。 自家製・いちごジャムの大瓶がトレイの上に加わった。
「 うわ! おいおい いきなり危ないよ〜 」
「 えへへへ ・・・ お父さん 運んで〜 」
「 ったく ・・・ おい すばる、テーブルの上、拭いておいてくれよ。 」
「 わ〜かったよ〜ん♪ 」
すばるはちょんちょん跳びながら キッチンを出ていった。
「 やれやれ ・・・ しかしまあ・・・これホント、美味そうだなあ〜
アイツ、いつの間にかかなり腕、上げたなあ・・・ 」
カチャカチャ ・・・ カチャ ・・・ ジョーはかなり重いトレイを運んでいった。
父とムスコの入れ替わりに母がバスルームから戻ってきた。
「 え〜と ・・・ お茶の用意はしてあげましょうかね。
ミルク・ティー と カフェ・オ・レ と。 あらら・・・ 牛乳が足りるかしら。 」
冷蔵庫を開けて一応中身の点検をしてから マグカップを並べる。
「 ふふふ ・・・ 今晩はどんな御馳走になるのかな♪
< 今日のゴハン なに? > って誰かに聞くの。 まぁ 何年・・・いえ 何十年ぶりかしら。
・・・ うふふふ すごくわくわくしちゃう♪ 」
― ドン ! キッチンの勝手口のドアが開いて 金色のアタマが入ってきた。
「 ただいま〜〜〜 はあ〜 間に合った〜〜〜 」
「 ? すぴか さん?? 」
「 おか〜〜さん! ただいまったらただいま! すばる〜〜 買ってきたよぉ〜 アイス! 」
「 ・・・ いま 帰ってきたの? 」
「 え?? そ〜だよ〜 」
「 だって ・・・ さっきお父さんと屋根裏にいた ・・・ わよね? 」
「 え〜〜〜 なんで?? アタシ、たった今! デザート用のアイス、買いにいってきたのぉ〜
お母さん 大丈夫?? ねっちゅうしょう なんじゃないの?? 」
「 わお〜〜 すぴか〜〜 ありがと〜〜 僕の好きなチョコちっぷ、あった? 」
どたどた・・・すばるが駆け戻ってきた。
「 あったよ! ほらほら〜〜 はい! 」
「 うわ ・・・ うん・・・ めるしい♪ 」
すばるは姉から どごん、と大きな包みを受け取った。
「 わあ〜〜い ひえひえだね〜〜〜 」
「 うん、ストアのおじさんがね、 ドライアイスめいっぱいつめてくれたから♪ 」
「 わお〜〜 すぴか〜 メルシ♪ さあ ごはん です!! 」
「 おっけ〜〜 あ! ちょいまち! アタシ、 手と顔、洗ってくる。 汗でびたくた〜〜 」
「 りょうかい〜〜。 あ お母さん? ゴハンだよ。 ほらほら早く〜〜
あ お父さん〜〜!! アイスのお皿 出すの手伝って〜 」
すばるはかなり偉そうに 母と父に声かけ、もったいぶった様子でアイスの包みを
冷凍庫に詰め込んだ。
「 ・・・ ねえ すばる。 すぴか 今、帰ってきた のよねえ? 」
「 そうだよ。 お母さん? 本当に大丈夫?? 」
「 え ええ ・・・ ごめんなさい。 さあ ゴハンね。 」
「 うん! 今日はね〜〜 お〜ぷん・さんど にしたんだ♪
ゆで卵でしょ、ハムでしょ。 ぽてと・さらだでしょ。 あと ぐり〜ん・さらだ で
ぷちとまと と ご〜や〜 なんだ。 」
「 まあ〜〜 すごいわ〜〜 楽しみ 楽しみ〜〜♪ 全部すばるが作ったの? 」
「 あ ・・ あ〜〜 下ごしらえはちょこっとお父さんがやったけど。
味付けと盛り付けは 僕! さ〜 たべようよ!
おじいちゃまも もうお席に座っているよ。 」
すばるは母の手を ぐい、と引っ張った。
「 はいはい 今行きますよ。 あ ちょっと待ってね、お茶の用意・・・ 」
「 お母さん! お母さん は! 今日は <夏休み中> なんでしょ!
だ〜から なんにもしなくて いいよ〜 」
「 あ そ そう? 」
「 そう。 あとでお父さんがやるよ。 だから〜ごはん ごはん〜〜 」
すばるは苦笑している母の背をずんずん押して 食卓まで連れていった。
「 わ〜〜〜 手洗い完了〜〜〜 ! 」
ダダダダ・・・ ドン! すぴかがバス・ルームから食卓の自分の椅子に突進してきた。
「 あらら・・・ ほら ちゃんと手、拭いて? 」
「 あ・・ えへ ・・・ えい! 」
すぴかはTシャツの裾でごしごし手を拭いている。
・・・う ・・・。 ま まあ いいわ。 今日は見なかったフリ・・・
「 え〜と? それじゃいいかな〜 」
「「 は〜〜い 」」
「 では ・・・ 皆で いただきます! 」
「「「「 いただきます 」」」」
食卓に集う全員が唱和して 楽しいお昼御飯が始まった。
ぶわ〜〜ん ・・・ 午後の熱い風が 裏庭を吹きぬけてゆく。
そのたびに 洗濯物はひらひら ぱさぱさ ばっさばっさ ・・・ ロープにしがみ付いてゆれていた。
「 うわあ〜〜い へへへ ・・・ いいきもちぃ〜〜 」
すぴかがリネンの波に絡まって遊んでいる。
「 あ〜〜 すぴかったら〜 い〜けないんだ いけないんだ〜♪
干してある洗濯物であそんじゃ いけないんだよ〜〜 」
「 しってるよ〜だ・・・ 遊んでるんじゃないもん。 かわいてるかな〜ってみてるの! 」
「 全部かわいているよ〜〜 ねえねえすぴか。 ろーぷ、はずせる? 」
「 ちょいまち! ・・・ う〜〜ん ・・・?? かた・・・い ・・・ 」
すぴかは台にのって洗濯ロープを外そうとしたが 結び目は小さい手には頑丈すぎた。
「 くゥ〜〜 ・・・ダメっぽい。 すばる、いっこづつ、はずそう。 」
「 うえ〜〜 こんなに一杯あるよ〜う ・・・ 」
「 しょうもないじゃん。 さ! でっかいヤツから〜〜 」
「 よ よし ・・・・ うわ〜〜〜 すぴか すぴか〜〜 助けてェ〜〜 」
「 ・・・っとにぃ〜〜 いきなり全部外すから〜〜 はじっこから ゆくよ〜 」
「 わっぷ 〜〜 そっか ・・・ はじっこ はじっこは〜〜 」
「 バスタオルでしょ、 おふろのときのタオルでしょ ・・・ あ〜〜 もう持てないかも〜 」
「 うわ うわ〜〜 シーツって うわ〜〜 おっこちるなああ〜〜 」
すばるはロープから外したシーツと格闘し、すぴかは乾いたタオルやらシャツ類を
持てるだけもったら前方視界不良・・・
「「 うわ〜〜〜 ・・・・ 」」
・・・ すばるは シーツの端っこを引き摺りつつ <道案内>。
すぴかはよろよろしつつ 弟の声を頼りに歩いてゆき。
「「 ・・・ どっさ〜〜〜 !!! 」」
やっとのことでリビングにソファの上に放り投げることに ・・・・ぎりぎり成功 ・・・した。
「 ・・・ ふうう〜〜〜・・・・ やた・・・! 」
「 は〜 ひ〜 ・・・・ もう ・・・ヤだぁ〜 」
「 これ ・・・・ たたむ んだよねえ? 全部 ・・・ 」
「 ・・・・・・・・・ 」
ふうう 〜〜〜 ・・・・・
二人は顔を見合わせ ・・・ 大きな大きな溜息をついた。
「 ・・・ アタシ、 こっちからやるから。 」
「 うん ・・・ 僕、 こっち・・・ 」
大きな洗濯物の山の両端に陣取って すぴかとすばるはのろくさタオルを取り上げた。
「 すぴか〜〜 すばる? 洗濯物はとってきたかな〜 」
ジョーがエプロンで手を拭きつつ キッチンから出てきた。
「「 あ〜〜〜 お父さん!! 」」
「 お。 ちゃんととって来れたね〜 すごいぞ〜 」
「 お父さん お父さん〜〜 アタシねえ こ〜〜んなに・・・いっぱい持ってきたんだ〜〜 」
「 お父さ〜〜ん 僕ね 僕ね〜〜 し〜つと闘った! でもしっかり持ってきたよ! 」
子供たちは口々に 奮戦記 を申告する。
「 ふう〜ん そうか〜 すごいぞ、二人とも。 で 今畳んでいるんだね。 」
「「 ・・・ うん ・・・ 」」
二人の手元には まだタオルがちょびっと畳まれているだけだ。
あは ・・・ 苦戦中、ってことか。
・・・ あれ・・・ シーツの端に土がついてる・・・ ははあ ・・・ 引き摺ったな・・・
まあ 仕方ない か・・・
「 そっか〜 ・・・ うん、それじゃ。 二人とも休憩タイムだ。 」
「「 え〜〜〜?? いいのぉ〜〜 」」
「 うん。 掃除にお昼ごはんの用意に・・・ 洗濯物の取り込み だろ?
ず〜っと お仕事 したんだからね、 休憩しておいで。 」
「 うわ〜〜〜 ♪ ねえねえ お父さん。 あの ・・・ ちょっと ・・・遊んでいい?? 」
「 うわお〜 あ 僕も 僕も ちょ・・・っと 図書館、いっていい? 」
「 ああ いいよ。 ただし。 オヤツたいむ までには帰ること。
次の二人のお仕事 は オヤツたいむ の準備です。 」
「「 らじゃ♪ 」」
「 あ! 遊びに行くなら! 帽子〜〜 忘れるなよ〜 」
「「 はああ〜〜〜〜い♪♪ 」」
特大のお返事をし 畳み掛けていたタオルをほっぽリ出し ― ダダダダ ・・・・!
すぴかとすばるは帽子を取りに子供部屋にダッシュしていった。
「 ふふふ ・・・ まあ いいさ いいさ。 子供の仕事は 遊ぶこと だからな〜 」
じゃ 続きやるか〜・・・と ジョーは洗濯物の山の前に座り込んだ。
・・・ ぱさ。 タオルを一枚畳む ぱさ。 もう一枚 ぱさ。 また一枚 ・・・
「 よく乾いてるな〜〜 気持ちいい・・・ うん ・・・ 」
ぱささ。 すぴかのTシャツを畳む ぱささ。 すばるのTシャツを畳む
「 ・・・ あのコ。 ・・・ふぁんしょん って言ってたよなあ・・・
やっぱどうしても どうみても ・・・ フラン ・・・ ? いや そんなはず・・・でも・・・
あの時、あそこはウチの屋根裏 じゃなかったよなあ? 」
ぱ ・・・さ ・・・ ジョーのTシャツを畳む ぱ ・・・・・ さ フランのブラウスを手に取る。
「 ・・・ あの髪も あの瞳も ・・・フランそっくり・・・ってか フランだよなあ〜 ・・・ 」
ジョーの手の動きはだんだんゆっくりになり ・・・ 止まった。
「 だって ・・・ あのとき ・・・ 〜〜〜 ・・・ ジョーはゆらゆら記憶を辿る・・・
ファンション、と名乗った女の子は にっこりジョーに微笑みかけた。
「 ようこそいらっしゃいました。 あのねえ・・・ ジャンお兄さん、ちょっとお使いなの。
もうすぐ帰ってくると思うわ。 」
「 あ ・・・ そ そう ・・? 」
「 ええ。 だから どうぞお掛けになってお待ちくださいな。
え〜と・・・ 難しいお名前のお兄さま? 」
「 ・・・ は はい ・・・ 」
「 うふふ・・・ ジャンお兄さんね、朝、ママンに頼まれたお使い、忘れてて・・・
さっき大急ぎで飛んでいったの。 でもね、角の薬屋さんまでだからもうすぐ帰ります。 」
「 は あ ・・・ 」
「 それまで わたしがお相手しますね? お兄さま、きれいな瞳ね♪ 」
ふわ・・・っと小さな身体が ジョーに接近してきた。
「 わ・・・! ( お 落ち着け!! すぴか だ すぴかと同じだぞ! ) 」
「 ウチはねえ、ず〜〜っと皆青い瞳なの。 濃い色の瞳ってしんぴてきですてきだわ。 」
「 そ そう? 」
「 ええ。 それにねえ、暗い色の髪もいいわね。 時々、セピアの髪になってみたいわ。 」
「 そ そうかな〜 フラ・・・いや、 君の髪が一番きれいだと思うけど ・・・ 」
「 あら そう? メルシ〜〜 ムッシュゥ♪ この髪はねえ、パパのご自慢なの。
ファンションの髪は ママンのとそっくりでパリで一番キレイだねって。 」
女の子は頬を染めてとても嬉しそうだ。
「 へえ ・・・ 君のパパって すごく君のこと、大事にしてるんだね。 」
「 うふふふ ・・・ あのね、ナイショで教えてあげます、お兄さま。
パパはねえ 私のこと、 僕の大事な宝石 とか 僕のお姫様 とか 呼ぶのよ。 」
「 あ そうなんだ〜 ( ううう〜〜 わかる! わかるなあ〜〜 その気持ち〜〜 ) 」
「 私もパパが大好き。 ちっちゃい頃にはパパのお嫁さんになる、って言ってたの。
ふふふ ・・・ おかしいでしょう? 」
おしゃまな女の子は ひどく大人びた口調で言う。
「 え あ ・・・ でも 女の子は小さい頃に皆そう言うって 聞いたよ? 」
「 そう? だってパパにはママンがいるのにね。
だからわたしは ジャンお兄様のお嫁さんに 」
「 ― え。 」
「 うふ、ちゃ〜んと知ってます。 ・・・ ジャンお兄様のお嫁さんにはなれないって。
だから ・・・ ね。 私はジャンお兄様みたいなヒト、のお嫁さんになりたいの。 」
「 あ そうなんだ? 」
「 ええ。 ・・・ ムズカシイ名前のお兄さま。 ちょっとジャンお兄さまと似てるわ・・・ 」
「 そう ・・・ かな? 」
ジョーはなんだか滅茶苦茶に照れ臭くて、でも嬉しくて。
「 ぼ ぼく も ・・・ 君みたいな女の子、好きだな。 」
「 まあ ありがとう、ムッシュウ。 」
「 いやあ ・・・ えへへへ・・・・ あれ? 」
「 どうしたの、お兄様。 」
なぜか階下ですばるの声が呼んだ・・・気がして ちょっとごめんね、とジョーはドアを振り返る。
「 あら ムッシュウ? 御手洗はね、階段の下の突き当たり。 」
「 あ ありがとう・・・ ふぁ ファンション。 」
「 どういたしまして。 」
「 し 失礼シマス・・・ 」
ほんのちょっと・・・と思い、ジョーはドアを開け廊下に出た。
あ あれれ・・? ここ ウチの廊下、だよなあ??
じゃ ・・・ さっきの部屋は なんだったんだ??
あの子も・・・??
耳を澄ませても すばるの声は聞こえない。 彼はすぐにたった今、出てきた部屋の前に戻った。
どう見ても我が家の屋根裏部屋のドアだ。 しかし そのまま開けるのは気が引けた。
「 ・・・ あ あの! 入ってもいいですか?? 」
・・・ そうなんだよ。 それで ― そしたら。 フランがドアを開けてくれて・・・
どうしたの、ジョー ・・・って。 いつもの笑顔がぼくを見た・・・んだ・・・
パサ パサ ・・・ バスタオルを畳む バサバサ ・・・ シーツを捌く。
「 ・・・ なんだったんだ?? ぼくは ― 夢でも見てたのか ・・・?
真夏の白昼夢 ・・・ってヤツなのか ・・・ 」
目の前には ぱりぱりに乾いた洗濯物がきれいに畳まれている。
子供たちは元気に遊びに行った。 キッチンはきれいに片付き、食器もぴかぴか。
彼の愛する妻は 優雅に読書中・・・のはず。
「 やっぱ・・・夢、だよなあ? 幸せ過ぎて ボケちゃったのかも・・・
よし! 晩飯はう〜〜〜んと腕を振るうぞ? まだまだすばるには負けられないぞ。 」
パン・・・! と最後のシーツを畳むと、ジョーは勢い良く立ち上がった。
その日の晩御飯 ― 今度はお父さんが主導権を奪還し。
お母さんのお得意・ラタントゥウィユがメイン・メニュウとなった。
すばるは マイ・包丁を使っていろいろな夏野菜を丁寧に切りわけ
すぴかはデザート用のスイカを豪快に切り <お手伝い> も まあまあ合格点をもらえた。
その夜、子供たちは あっと言う間に寝付いてしまった。 慣れない作業にくたくただったらしい。
夫婦はの〜んびりした時間を 寝室で過す。
「 ・・・ ねえ ジョー? 」
「 ふんふんふ〜ん♪ ・・・っと え なに? 」
フランソワーズはベッド・リネンをひっぱったり枕をぽんぽんしている夫に声をかけた。
「 あの ・・・ 聞いても いい。 」
「 うん なに。 」
「 あの ・・・ お昼ごはんの前に ・・・ そのう、ジョーってば すぴかと 」
「 すぴかと? アイツさあ ・・・ やっぱもうすぐ、 ほら中学生とかになると
お父さん キライ なんて言うようになるのかなあ・・・ 」
「 え? ・・・ さ さあ ・・・ そんなこと、ない・・・と思うけど・・・? 」
「 ・・・そっかなあ そうだといいんだけど・・・
ずっと・・・ ぼくのお姫様で いてくれるかな。 おとうさ〜ん♪って飛んできてくれる かな・・・ 」
「 ・・・そう ・・・ 多分・・・? 」
あ あら。 なんて淋しそうな顔 ・・・
ふ〜ん ・・・ やっぱ 父親にとってムスメって特別なのねえ・・・
「 それで なに? 」
「 あ ううん なんでもなかった! 」
「 ふうん? あ ・・・ あの さ ぼくも聞きたいことがあるんだ。 」
「 あら なあに。 」
「 あの ・・・ きみってさ。 ぼくと初めて会ったのって ・・・ いつ 」
「 え? ヤダ〜〜忘れたの? あの島の海岸でしょ。 」
「 え ・・・ そ そうだ よねえ・・・? きみってばぼくのこと、じ〜〜〜っと見てた よねえ・・・
あの時 ・・・ なんてきれいな女の子なのだろう・・・って思ったんだ ・・・ 」
「 うふふ・・・ なあに、今更。 イヤなジョーねえ〜 ♪ 」
「 い いや ・・・ 」
フランソワーズはふわり、とジョーの首に腕をまわす。
「 ホント言うとね。 わたしも、 なんてステキなオトコノコなんだろう〜〜って思ってたの♪ 」
「 なんだ。 一緒じゃないか。 」
大きな手が くい、と彼女のアタマを支える。
碧い瞳、輝く瞳が微笑んで、その笑みにジョーはいまだに少し、くらくら来る。 身体の芯が熱い。
そう この瞳だ。 同じ輝きだった、間違いじゃない。
や やっぱ ・・・ あのちっちゃな子は ・・・ ???
いや そんなはず ないよなあ ・・・
・・・ ぼく やっぱ寝ぼけてたのかなあ・・・
「 ねえ? そんな昔話よりも ・・・ ね? どう? 」
「 ・・・・?? 」
フランソワーズは ネグリジェの裾を払いふわ〜ん・・・と回ってみせた。
「 ??? あ ・・・ この匂い・・・・ 」
「 うふふ? 思い出した? 新婚のころ ジョーが大好きって言った香りよ 」
「 う〜ん やっぱりさあ 10年以上経つと変質しちゃうんだねえ? 」
「 ・・・え ・・・? ( 昨日 買ったばっかりなんですけど・・・ ) 」
「 ねえ いつもの。 ぼく、石鹸みたいな香りがいいや。 アレにしてくれ。 」
「 ・・・え ・・? 」
ジョーは彼の細君の首筋に、豊かな髪に顔を埋める。
「 あの香りがいいな。 ああ ・・・ フランの匂いだ・・・って思うもの・・・ 」
石鹸みたいな香り って! アレは正真正銘・石鹸の匂い なんですけど!
いつもは お風呂のあとにアロマなんかしてませんよ!
・・・・ もう〜〜〜 オトコってえ〜〜
ふ・・と 髪を愛撫していた大きな手が止まった。
「 ・・・ あの さあ きみって ・・・ その、ちっちゃい頃って どんなだった?」
「 え? ・・・ うふふ・・ わたしねえ、小さな頃から想像力過多っぽくて ・・・ 」
「 そ 想像力過多?? 」
「 ええ。 所謂 <わたしだけに見える> お友達 がいっぱいいたの。
ほら・・・子供の頃だけ見える・お友達 よ。
オトナになれば自然にお別れできる・・・ ジョーにも 居たでしょう? 」
「 あ ・・・さ さあ・・? 」
「 父や母が笑って教えてくれたけど・・・ファンの<お友達>は 何人いたかわからないよって。」
「 き きみは ・・・ 覚えていないの? その ・・・ <お友達> のこと。 」
「 う〜ん・・・ ホントにいっぱいいたのね。 だから もうはっきりは覚えていないのよ。
ね? 普通 皆忘れちゃうのよ。 それが当たり前なの 」
「 忘れちゃう ・・? 」
「 ええ、いつの間にか・・・ そうね、お別れするのね。
それで ― 少女はオトナになって ・・・今、目の前にいるヒトに恋してるの♪ 」
「 ・・・ ああ ・・・ きみってヒトは・・・! 」
「 うふふふ ・・・ 夢から醒めて。 わたし 現実に夢中なのよ、元・少年さん。 」
「 ぼくもですよ、 元・ちっちゃなオンナノコさん♪ 」
ジョーはゆっくり彼の、そして彼を恋する女の唇を奪った。
・・・・ 夏休みに 二人はますます熱く萌えた夜に突入していった。
****** ちょっとオマケ ******
「 うん、知ってる、僕。 」
すばるは当たり前じゃん? って顔でうんうん・・・頷いている。
「 し ・・・ 知ってる?? すばるが? 」
「 うん。 あのコ ファンションちゃんでしょ? 僕 やねうらで会ったよ。
僕のなかよしさんだもん。 」
「 ・・・ え !? 」
「 きれ〜でさあ やさしくってさあ〜 僕ぅ ファンションちゃん、お嫁さんにしたいな〜♪ 」
「 え!?? 」
「 くるくる〜って髪がここで丸まっててね いいにおいがするんだよ〜 」
「 す すばる!! お お お母さんはな! お父さんのお嫁さんなんだぞ! 」
「 ?? なに? あったり前じゃん そんなこと。 」
「 ・・・ お父さん、大丈夫? どうしたの? 」
「 だから! あ ・・・ あ いや その ・・・ 」
「「 おっかしなお父さんだね〜〜〜 あっはっは〜〜 」」
子供達は大笑い・・・ お父さんは でも笑えない。
すばる〜〜〜 彼女はお前のお母さんなんだぞ〜〜
そして ・・・ モンダイはそれだけじゃなかった。
ジョーは悩んでいる。 ものすご〜〜く悩んでいる。
ずっとず〜〜っと悩んでいる ― こんなこと、誰にも相談できない ・・・が。
アレってやっぱり ・・・ 浮気 だろうか??
屋根裏の不思議な空間で出会った小さな女の子。 一目で心を奪われ・・・恋をした。
けど。 自分は妻子ある身。 これは最愛の妻への ・・・ 裏切り行為 だろうか??
ファンション ・・・ そう名乗った碧い瞳は ・・・ 妻に瓜二つ。
あの子は ・・・ フラン なのか?? いや まさか そんな。
じゃ 自分は許されざる・浮気ものなのだろうか??
シマムラ ジョーは悩んでいる。 ずっとずっと ず〜〜〜〜っと ・・・
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Fin. ***********************
Last updated
: 09,04,2012. back
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******** ひと言
― で。 屋根裏部屋のひみつ は そのまま残ったのでした♪